美の追求ではなかった古代エジプトART
- 聖二 文田
- 2024年10月11日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年10月12日
古代エジプト人がいかに賢い人間だったかを示す格言が、五千年前のパピルスに書かれている。
「賢いことばは緑の宝石より珍しい。しかし、それを人は、石うすをひく貧しい少女の口からも聞くことができる。」
エジプト美術の根底には、現世の美を追求するという意識は存在せず、むしろ死後の世界での役割が強調されていた。エジプトの壁画や彫刻は、神々や復活した王に仕えるための「道具」であり、装飾や個人的な美意識よりも、宗教的・社会的な役割を担っていたのだ。

古代エジプト 彫刻
アートは人間(殉葬)の代用として
古代エジプトでは、王が死ぬと共に、家族や奴隷も生きたまま埋葬される「殉葬」という残酷な慣習が行われていた。生者を犠牲にする代わりとして、副葬品が生まれ、それがエジプト美術の発展に寄与した。特に、シャブティ像という小型の彫像は、死者の代わりに労働をするために副葬され、これにより王の奴隷たちが犠牲になる必要がなくなった。

シャブティ像
副葬品は、死後の世界で死者を守り、彼らの地位や役割を引き継ぐものであり、美術品の役割はここにあった。現代の美術作品と異なり、それらは創造性の発露や自己表現を目的としたものではなく、宗教的・社会的機能を果たすものであった。
神と蘇った王に捧げられた厳格なルール
古代エジプト美術の特徴の一つは、その表現方法が極めて規則的であったことだ。壁画や彫刻は「神に捧げる」ものであり、個人の創造性や独創的な解釈を持ち込むことは禁じられていた。

神聖な存在に対する冒涜と見なされ、時には死刑に値することもあった。すべての描写は、神や王に対して正確な情報を伝えることが目的だったため、人物の大きさやポーズ、方向性に至るまで厳密なルールが存在していた。

例えば、
人物の大きさは身分を示し、地位が高いほど大きく描かれる。
顔は横向きで目は正面を向き、体の一部は前を向いていなければならない。
集団の構図では、人物は左右上下にずらして描かれ、錯覚による誤解を避けるために正確な情報を伝えた。

こうしたルールに基づいた美術表現は、3000年以上にわたってほとんど変わることなく続いた。これは、社会の安定性や宗教的な統一感を維持するための手段であったとも言える。

古代エジプトの芸術は、時代を超えて変わらぬ姿を保ち続け、永遠に神々の世界に捧げられるものとして機能し続けた。

このように、古代エジプト美術は単なる装飾や美の追求ではなく、宗教的な信念と社会的秩序を反映したものでした。それは、死後の世界への備えであり、神々や王に対する忠誠の証でもありました。

死者の書
この背景を理解することで、エジプトの芸術がなぜそのように厳格で一貫性があったのかが明確になります。
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